コラム

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不安症のお話

一番多い問題は何?

皆さんは犬の問題行動といえば何を思い浮かべるでしょうか?
・吠える
・咬み付く
・言うことを聞かない
・トイレを失敗する
こんな感じですか?

 今、この札幌動物行動クリニックに来院されている患者さんで一番多い問題行動は「不安からくる様々な症状」なのです。
例えば、皆さんご存知の「分離不安症」も不安から現れる症状ですし、ある特定のもの(例えば、除雪車や黒い服を着た人など)が怖くて外に行けないという症状や、不安があるから攻撃したり、吠えたりするという症状もあります。
 少し以外でしょうか?でも、動物もいろんな経験から様々な感情が生まれています。ですから、不安に思うことが出てもおかしくはないのです。
こういった不安症に対しては、行動療法はもちろん薬物をつかって治療していくこともあります。
動物にも不安に思うことがあるんだということをわかっていただければ幸いです。

前回、不安症ついてお話しました。今回はもう少し不安について掘り下げてみようと思います。
動物が不安を感じるのは、どういう時でしょうか?
皆さんも経験が有ると思うのですが、何か怖いことがおきて、それと似たようなシチュエーションを経験した時や、その時に聞いた音と同じ音が聞こえたとき。極端なさみしさを感じたとき。テストの答案を間違えていないか気になる時。など。人間と同様に動物も恐怖を感じた時の状況になったり、音を聞いたり条件がそろうと不安が強く出てきます。また、人間より聴覚や嗅覚が優れている分、人間では恐怖を感じないようなことにも、不安を覚えるということもあるようです。
実際に、不安を感じると様々な症状が出て気ます。
・パンティング(息づかいがあらくなる)
・うろうろする。
・吠える
・物を破壊する
・攻撃的になる。
・排泄をする。
・下痢や嘔吐といった内科的な症状 などなど 
単にわがままだと思っていた行動が、実は不安からくるものということもあるかもしれません。かわいいペットの行動にもいろんな意味があること感じてください。

前回の不安症のお話から、もう少し掘り下げて「分離不安症」のお話です。
分離不安とは小児の精神科で使われる言葉で、親などから子供が離された時に、非常に強い不安を感じて様々な行動をおこすというものです。これがペットの動物にも同様に当てはまることから、使われるようになりました。犬だけではなく、猫にもおこります。また、人間と社会生活を送る動物はすべておこり得るとも言われています。
では、具体的にどのような行動がでるのでしょうか?
・咆哮(吠え続ける、遠吠えなど)
・破壊行動(ドアやソファなどをボロボロにする)
・排泄(排便や排尿をトイレ以外のところ、特に飼い主の匂いのついたものなどにする)
・内科的な症状(下痢や嘔吐、食欲不振、震え、パンティング)
これらの症状が、飼い主が不在の時にのみ出るといわれています。どうですか?思い当たることがありますか?いままで嫌がらせだと思っていたことが、実は精神的な疾患だったということがあるかもしれません。でも、これらの症状がでたからといってすぐに分離不安と決めるのはよくありません。ほかの理由でも同様な行動が現れる場合があるからです。また、内科的な症状の場合、分離不安を疑う前に必ず、獣医師の診察をうけるようにしてください。次回はどうでして分離不安になるかのかを解説します。


では、なぜ「分離不安」になるのでしょうか?原因がいくつか考えられます。

・はじめから、不安を強く感じてしまう器質をもっている。
・自分(ワンちゃんの)をとりまく環境の急激な変化があった。
 たとえば、引越し、飼い主の生活パターンの変化、新しく家族が増えるま たは減る、新しく動物を飼う、 など
・ワンちゃんが飼い主さんに対して「依存心」が強い
・飼い主にも犬に対する「依存心」が強い傾向がある。
・老齢になって不安が強くなる

ここで、注目したいのは「依存心」ということです。これは「信頼」とは意味が違います。ワンちゃんが人とともに生活するうえで必要なのは、人に対する「信頼」だと思います。それには、精神的な成長がとても必要になります。これは、飼い主の側も成長する必要があります。つまり、一人でも留守番がきちんとできるように教えてあげるひつようがあるということです。そうすることで、ワンちゃんも「一人で留守番することが、飼い主さんが望むことだからやろう」という気持ちがもてるようになります。
では、実際にはどのようにしたらよいのでしょうか?これについては次回にお話いたします。


では、実際に症状が現れてしまったらどんなことにきをつけたらよいのでしょうか?
まず、やってはいけないことからお話します。
・出かけるときにながながと話をして説得すること。
  こうすると、「自分はひとりぼっちになるんだと不安が強くなると言われています。
・帰ってきたときに真っ先にワンちゃんの所に行くこと。
  これにより、ふたたび留守番をするときの不安が大きくなります。
・帰ってきてから、いろいろな行為(破壊、排泄など)を見つけてしかること
 けっして嫌がらせではなく、不安からそういった行動をとっています。ぐっとこらえてだまっ てかたづけてください。(しかりたい気持ちはすごくよくわかります)。
・家にいる間中、常にべったりとくっついていること。
  飼い主さんとふれていることが安心材料になってしまうと、片時も離れることがますますで きなくなります。また、飼い主さんはワンちゃんを一人ぼっちにさせているという罪悪感から自分がいるときは常に触れていようとしてしまうことも原因の一つかもしれません。こうなるとまるでスートーカーの ようにトイレの前や、お風呂の前などでも常に見張って出かけるそぶりがないか確かめるようにな ることもあります。

飼い主さんが知らないうちに、ワンちゃんの不安を大きくしていることがあるかもしれません。でも、決して冷たく接するということがいいことではありません。前回もお話しましたが、「依存」ではなく「信頼」をうまく築くように接することが大切です。次回は飼い主さんがやってほしいことを書きます。

では、実際に分離不安症の症状が出てしまったときに飼い主さんにやってもらいたいことについてお話します。
1日に何回か、遊びを使った「服従のトレーニング」を行う。
これは、精神的な成長を促し、飼い主さんとの間に「信頼」を作ることが目的です。「オスワリ」「マテ」をかけながら、遊んだり、おやつを与えたりしてください。こうすることで、飼い主さんのために仕事をうまく行うことを学習させ、「留守番をすることも飼い主さんが望むことだからやろう」という気持ちをワンちゃんに持ってもらうことが目標です。
「マテ」をかけて少しずつ離れて、部屋から出てすぐに戻る。
これも、「待つことを覚えてもらうにはとても重要なことです。
出かける前に軽い運動を行う。
ボール投げやジョギングなど、ワンちゃんの息が荒くなるくらいの運動をおこなってください。こうすることで、1匹でいるときの不安が少しは解消されます。
1匹で留守番をするときのために、「特別なおもちゃ」を用意する
これは、どんなおもちゃでもよいのですが、その子にとってとても大好きなものを選んでください。また、食べることが大好きなワンちゃんであれば、食べ物をつかったおもちゃもいろいろと市販されています。うまく利用すると良いでしょう。また、そのおもちゃは特別なものなので、飼い主さんがいるときには使わないようにしておいてください。つまり、帰ってきたらしまってしまいましょう。

このほかにも飼い主さんに行ってほしいことがありますが、この続きは次回にお話します。


前回に引き続き、飼い主さんにやってもらいたいことを書いていきます。
・出かける前の声かけはポジティブに行う
以前は、なるべく無視して行く方が良いと言われていましたが、最近では「行ってくるね!バイバイ!」などと明るく声をかけることは良いと言われています。あまり、長々と話すのではなければよいでしょう。
・帰ってきてからすぐにワンちゃんの所に行くことをやめる。
 非常に喜んでいるワンちゃんの側にすぐにでも行きたい気持ちは良くわかりますが、ここですぐに行って撫でたりしてしまうと、再び出かける時の不安が強くなります。なるべく、先にご自分のことを行ってください、例えば、冷蔵庫に買ってきたものをしまうとか、服を着替えるとか。
・落ち着いてから、コマンド(オスワリ、マテなど)をかけて思い切り遊ぶ
こうすることで、発散ができます。
・もし、粗相や破壊があっても叱らない。
不安で行っているので、叱っても効果がないことがあります。また、現行犯ではないので意味がありません。怒りたい気持ちはよくわかりますが、ぐっとこらえて片付けてください。
どうですか?今まで逆に不安なることを強化しているようなことがなかったでしょうか?でも、もし分離不安のような症状が現れても、すぐに精神的な疾患だと思わずに、まず、動物病院で体の検査を受けてください。体の変調から不安の症状が現れることがあります。次回からは恐怖症のお話です。